大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

長崎家庭裁判所佐世保支部 昭和41年(家)92号 審判 1966年7月04日

国籍 アメリカ合衆国オハイオ州 住所 佐世保市

申立人 ロバート・ジイ・ライアン(仮名) 外一名

国籍 アメリカ合衆国イリノイ州 住所 申立人に同じ

未成年者 シモーヌ・ピー・マクドナルド(仮名)

主文

申立人両名が未成年者シモーヌ・ピー・マルドナルドを養子とすることを許可する。

理由

一、申立人両名の審問結果、未成年者の親権者ローデル・リー・マクドナルド署名の権利放棄宣誓書、岩本里作成の養子縁組経過報告書、アントニエッタ・シャイマー作成の養子縁組家庭調書、横浜家庭裁判所調査官神崎恭郎ならびに当裁判所調査官真崎熙章各作成の調査報告書によると、次の事実を認めることができる。

申立人ロバート・ジイ・ライアンはアメリカ海軍補給部大尉であつて、一九五七年八月三一日申立人マドレーヌ・メリー・ライアンと婚姻したが、夫婦間に子供が生れなかつたので、ハワイ在住当時乳児を一人養子とした。来日後もう一人子供を養子として扶養したく、社会福祉法人日本国際社会事業団を通じて適当な子供との縁組を希望した。未成年者の実母ローデル・リー・マルドナルドは現在婚姻しているが、夫の子ではない未成年者を家族に加えることによつて、家庭の宥和が図れないことをおそれ、未成年者の出生前から前記日本国際社会事業団を通じて未成年者の縁組先を依頼していたので、未成年者は生後間もない一九六五年一一月八日実母同意のうえ申立人両名の家庭に引きとられ、現在に至るまで申立人両名のもとに監護養育されている。申立人両名の生活は安定し、未成年者に対して深い愛情を有しており、今後も申立人両名が未成年者を養育するについて、何ら危惧を感ぜしめる点は見あたらない。

二、ところで、申立人両名と未成年者はともに日本に住所を有し、わが国において養子縁組をしようとしているのであるから、当事者双方が外国人であっても、わが国の裁判所がその養子縁組の国際私法上の管轄権を有するものと解すべきである。そして、養親となるべき申立人両名の所属州法たるオハイオ州法によると、養子縁組については検認裁判所の許可を、養子となるべき未成年者の所属州法たるイリノイ州法によると郡の巡回裁判所または郡裁判所の許可を要し、これによつて縁組が成立すると解されるので、わが国の家庭裁判所の許可とはやや趣を異にするが、縁組に際しての具体的事実を米国州法に照してみて、縁組の実質的要件を阻害するところがないと認められる場合は、米国州法上の養子決定は、わが国の家庭裁判所の許可をもつて代えうるものというべきである。

三、前記認定事実によると、申立人両名が未成年者を養子とすることは未成年者にとつてむしろ利益であり、前記各州法に規定する縁組の実質的要件を阻害する点も見当らないので、縁組許可を求める申立人両名の本件申立は理由があるものと認め、主文のとおり審判する。

(家事審判官 藤野岩雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例